【第1ページ】総論・2024年改訂のグランドデザイン

1. 改訂の背景と基本理念

吸入ステロイド薬(ICS)の普及によって喘息の死亡率は減少したものの、依然としてコントロール不良な難治性喘息や、高齢化に伴う合併症管理が課題です。2024年改訂では、画一的な治療から、患者ごとの病態に焦点を当てた「Precision Medicine(個別化医療)」および「Treatable Traits(治療可能な特徴)」へのアプローチが全面的に導入されました。

2. 主要な改訂ポイント

  • 「基本的ロードマップ」の新設:初診から治療選択へのプロセスを視覚化。
  • タイプ2気道炎症の重視:アトピー非アトピーの枠組みから「タイプ2・低タイプ2」へ。
  • バイオマーカーの定期測定:血中好酸球数、呼気一酸化窒素(FeNO)の活用。

【第2ページ】診断の基本と「喘息診療ロードマップ」

1. 診断における詳細な問診

発作性の呼吸困難、喘鳴、夜間・早朝に悪化する咳嗽の有無を確認。職業環境、喫煙歴、アレルギー既往、さらにアドヒアランスを阻害する社会的因子の聴取が初期段階で求められます。

2. 客観的診断アプローチ

  • 呼吸機能検査:気道可逆性試験(吸入後 FEV1.0 が 12% かつ 200mL 以上改善)。
  • 気道炎症マーカー:呼気一酸化窒素濃度(FeNO)35 ppb 以上をタイプ2炎症の目安とする。

【第3ページ】病態分類の進化:タイプ2 vs 低タイプ2

気道炎症の免疫学的機序に基づくフェノタイプ分類が明確化されました。

分類 主な免疫担当細胞・因子 臨床的特徴 主なアプローチ
タイプ2喘息 Th2細胞, IL-4, 5, 13, 好酸球, IgE アレルギー素因、好酸球性副鼻腔炎の併存多。 吸入ステロイド(ICS)高感度。重症時は生物学的製剤。
低タイプ2喘息 Th1/Th17細胞, 好中球, IL-8 肥満、喫煙、加齢、大気汚染が関連。 ICS効果限定的。LAMA、生活習慣改善。

【第4ページ】コントロール状態の評価とモニタリング

1. 症状コントロール評価(ACTの推奨)

治療調整の基準として、Asthma Control Test (ACT) の実施が強く推奨されています。

  • 25点:完全コントロール
  • 20?24点:良好なコントロール
  • 19点以下:コントロール不十分(治療ステップの引き上げを検討)

2. バイオマーカーの定期モニタリング

血中好酸球数およびFeNOを定期的に測定し、増悪リスクの予見や生物学的製剤の適応変更に役立てます。

【第5ページ】長期管理の治療ステップ(薬物療法)

基本はICSベースの抗炎症療法を、重症度に応じ4段階のステップで展開します。

【ステップ1:軽症間欠型】 └ 必要時に応じた低用量ICS/formoterol(またはSABA+低用量ICS) 【ステップ2:軽症持続型】 └ 低用量ICSの毎日投与 + 必要時SABA/formoterol 【ステップ3:中等症持続型】 └ 中用量ICS/LABA(長時間作用性β2刺激薬)の併用 【ステップ4:重症持続型】 └ 高用量ICS/LABA + LAMA(抗コリン薬) ± 生物学的製剤

※2024年の重要点:ステップ3で不十分な場合、単純な増量前に必ず「吸入技法」と「アドヒアランス」を再評価すること。

【第6ページ】重症喘息と生物学的製剤の適応・選択

高用量ICS/LABA/LAMAでもコントロール不良な重症症例に対し、バイオマーカーに応じた生物学的製剤を選択します。

  • 抗IgE抗体(オマリズマブ):通年性アレルゲン陽性、血清総IgE適合。
  • 抗IL-5抗体 / 抗IL-5Rα抗体:血中好酸球数高値、頻回な急性増悪例。
  • 抗IL-4/13R抗体(デュピルマブ):FeNO高値、好酸球性副鼻腔炎の併存例。
  • 抗TSLP抗体(テゼペルマブ):低タイプ2を含む幅広い重症喘息に適応。

【第7ページ】吸入療法の多職種連携(吸入指導の標準化)

1. チーム医療による吸入指導

医師・薬剤師・看護師が連携し、統一された基準で吸入技法をチェックします。デバイス(DPI、pMDI)ごとの吸気流速の違いを理解させることが重要です。

2. デジタル・動画資材との連携

2024年版ではガイドライン内に2次元コードを多数配置。患者が自宅でも正しい吸入法を動画で再現・確認できる環境作りを推進しています。

【第8ページ】合併症の管理(COPD、ABPMなど)

1. 喘息・COPDオーバーラップ(ACO)

高齢者の喫煙者に多く見られます。治療の鉄則は「必ずICS(吸入ステロイド)をベースにすること」です。COPD単独と誤認して気管支拡張薬(LAMA/LABA)のみで治療すると、喘息の劇症化・致死的な増悪を招く危険性があります。

2. 難治性病態のスクリーニング

アレルギー性気管支肺真菌症(ABPM)や好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)の隠れた併存を見逃さないための鑑別フローが強化されました。

【第9ページ】急性増悪(発作)時の管理

1. 在宅での初期対応

SABAの速やかな追加吸入(20分間隔で最大2~3回)。改善しない場合は、速やかに医療機関受診を指示します。

2. 医療機関における重症度別治療

  • 小・中発作:酸素投与(SpO2 93-95%維持)、SABAネブライザー吸入、全身性ステロイド薬の早期経口投与。
  • 大発作・重篤:アミノフィリン持続静注、ステロイド点滴静注、必要に応じた非侵襲的陽圧換気(NPPV)や気管挿管の速やかな判断。

【第10ページ】ライフステージ別の配慮

1. 妊婦への対応

胎児への影響を恐れて治療を手控えるのは誤りです。母体の低酸素血症こそが胎児の最大のリスクであり、ICSなどの長期管理薬は安全に継続します。

2. 高齢者・小児・思春期

  • 高齢者:吸入エラー(同調不全)に対応するため、スペーサーの使用やデバイス変更を柔軟に行う。
  • 小児・思春期:年齢区分別の治療ステップ適用と、アドヒアランスが低下しやすい思春期の心理的サポート、学校保健との連携。




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