高齢者の腹痛疾患

高齢者腹痛疾患の臨床的特徴(最重要点)

高齢者の腹痛は若年者と異なり、症状が典型的ではなく(熱が出ない、痛みが強くない)、重症化しやすいため特に注意が必要です。

高齢者の腹痛を診る上で最も重要なのは、「症状の軽さと病状の重さが比例しない」点で す。腹膜炎などの生命に関わる重篤な状態であっても、腹壁の筋肉が萎縮しているために、 若年者のような「お腹が板のように硬くなる(板状硬、筋性防御)」などの症状が出にくい傾向があります。 バイタルサインの微妙な変化や、日常の行動(食事量、活気)の変化に目を配ることが不可欠です。

01

便秘症(宿便性腸閉塞、糞便嵌頓)

高齢者で最も頻度の高い腹痛の原因の一つですが、ただの便秘と侮ることはできません。 筋力低下、水分摂取不足、薬剤の副作用などで慢性化しやすく、過度に便が溜まると強い腹痛や腹部膨満感をきたします。 重症化すると直腸内で便が岩のように硬く固まり(宿便)腸を塞ぐ「宿便性腸閉塞」や、 腸壁に穴があく「壊死・穿孔」を起こすこともあります。

02

急性胆嚢炎・胆管炎(胆石症)

高齢者の急性腹症で多い疾患の一つです。胆石の嵌頓や細菌感染によって起こります。 通常は激しい右肋骨の下の痛み(右季肋部痛)や発熱がみられますが、 高齢者では、典型的な季肋部痛が出ないことも多く、「なんとなく元気がない」「食欲がない」といった漠然とした症状や、 微熱がある、あるいは黄疸や意識混濁(敗血症ショック)で発見されることも少なくありません。発見が遅れがちになることもあり、注意が必要です。

03

イレウス(腸閉塞)

過去の腹部手術による「癒着」や、大腸がん、便詰まり などが原因で腸の便の流れが滞る状態です。 お腹全体の張り、変動のある痛み(疝痛)、嘔吐などが特徴ですが、高齢者では「食欲不振だけ」を訴えるケースもあります。

04

大腸憩室炎

大腸の壁にできた袋状の凹み(憩室)に便が詰まり、細菌感染を起こして炎症が起きる病気です。 主に左下腹部や右下腹部に、限局して持続する痛みが生じ、軽度の発熱を伴うこともあります。抗菌薬の内服などで、軽快することが多いですが、重症化すると穿孔(腸に穴があくこと)して腹膜炎に進行するため侮れません。

05

虚血性大腸炎

大腸へ血液を送る血管が一時的に詰まり、腸の粘膜が酸素不足(虚血)に陥る病気です。 便秘に伴う「いきみ」などをきっかけに、突然の下腹部痛が起こり、 その後に鮮血の混じった下痢(血便)を伴うのが典型的なパターンです。

06

感染性胃腸炎

ウイルスや細菌による食中毒、あるいは免疫力低下に伴う腸内細菌のバランス崩壊などで起こります。 おなか全体の痛みに加えて、下痢、嘔吐、発熱などがみられます。高齢者の場合は脱水を起こしやすく、それが引き金となって持病が悪化することがあるため注意が必要です。

07

胃・十二指腸潰瘍(および穿孔)

胃や十二指腸の粘膜が削れ、潰瘍になる病気です。高齢者では、関節痛などで処方される痛み止め(NSAIDs)や、血液をサラサラにする薬の副作用として発症することが多く、「痛みをあまり感じない(無痛性潰瘍)」ケースが少なくありません。そのため、突然の吐血や、潰瘍が深く進んで穴があく「穿孔(せんこう)」による激痛で初めて気づかれることがあります。

08

急性虫垂炎(いわゆる盲腸)

若者の病気と思われがちですが、高齢者にも比較的多く見られます。 高齢者の場合、典型的な「みぞおちから右下腹部へ痛みの場所が移る」という経過をたどらないことが多く、 ただのお腹の違和感と思っているうちに、虫垂が破れて腹膜炎に進行してしまう例があります。

09

悪性腫瘍(大腸がん・胃がん・膵臓がんなど)

癌そのものの進行や、それに伴う腸閉塞、狭窄(通り道が狭くなること)によって腹痛が生じます。急激な痛みというよりは、持続する鈍い痛み、お腹の張り、急な便秘・下痢、体重減少などをきっかけに見つかることが多いです。

10

絞扼性ヘルニア

いわゆる「脱腸」の穴に腸がはまり込み、抜けなくなって血流が途絶えてしまう状態です。放置すると腸が壊死するため、緊急手術が必要です。お腹だけでなく、足の付け根(鼠径部)に痛みを伴うしこりがないかを確認することが重要です。

11

急性腸間膜動脈閉塞症

腸に栄養を送る動脈(腸間膜動脈)が血栓などで詰まる病気です。 腹部の触診ではそれほど硬くない(所見が乏しい)にもかかわらず、 「のたうち回るような猛烈な腹痛」を訴えるのが特徴で、 早期に壊死が進行する極めて危険な疾患です。

12

腹部大動脈瘤破裂(または切迫破裂)

腹部の大動脈がコブのように膨らみ、 それが破裂(または破れそうに)なる状態です。激しい腹痛や腰痛、背部痛が突然起こり、 急速に血圧が低下してショック状態に陥ります。

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